「労働安全衛生法とは、どのような法律だろう?」
「労働安全衛生法は、個人事業主にも適用されるのか?」
という疑問をお持ちではありませんか?
本記事では、そんな疑問の解決に役立つ内容を
- 労働安全衛生法について
- 現在検討されている労働安全衛生法の改正内容
- 現在検討されている労働安全衛生法の改正による個人事業主への主な影響
の順番に解説していきます。
労働安全衛生法について興味がある人には役立つ記事になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
労働安全衛生法について
労働者を守ることを目的として、労働安全衛生法という法律が定められています。
つまり、本来は雇用された者に適用される法律であり、個人事業主には適用されない法律です。
もっとも、近年、個人事業主が増加傾向にあり、雇用された労働者同様に保護しなければならないと考えられるようになってきました。
そのため、個人事業主にも適用されるような法改正が検討されています。
このように個人事業主にも関連することになりつつある労働安全衛生法とは具体的にどのような内容なのかについて、法律での定義を交えながら説明していきます。
混同されやすい「労働基準法」との関係性もあわせて紹介するので、詳しく知りたい人はチェックしてみてください。
労働安全衛生法とは?
労働安全衛生法とは、職場の安全や健康の確保、快適な職場環境の形成を目的とする法律です。
安全衛生の理解に乏しい職場では、労働者の安全が脅かされ、労働災害などが発生する可能性が高まります。
企業にとって労働者は大切な資産であることにかんがみ、労働者の安全と健康を守るためにこのような法律が定められています。
この法律に違反した場合には、定められた罰則が下されます。
労働安全衛生法は、1972年に制定されて以降、時代の変化にあわせて改正されています。
2015年には、現代社会では加重労働等により労働者のメンタルヘルスが害されることが多いことにかんがみ、ストレスチェックの実施等が義務化されました。
また、近年増加傾向にある個人事業主に対応するための改正も現在検討されています。
労働安全衛生法における労働者の定義・義務
労働安全衛生法における労働者とは、基本的に労働基準法における「労働者」にあたるひとを労働安全衛生法における「労働者」と同じだとしつつ、同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除くと定義されています。
なお、労働基準法では、使用従属性があるかどうかを基準に「労働者」にあたるかどうかを判断します。
つまり、会社に勤めているひとには関係しますが、会社から独立している個人事業主には関係ない法律だということになります。
労働安全衛生法における事業者の定義・義務
労働安全衛生法における事業者とは、「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義されます。
労働安全衛生法上の事業者は、労働者の安全・健康を守るために、労働安全衛生法に定められたあらゆる措置を実施することが義務づけられます。
具体的には、安全衛生教育や健康診断の実施、衛生管理者の選任などが挙げられます。
労働安全衛生法と労働基準法の関係
労働安全衛生法と似た法律に、「労働基準法」という法律があります。
よく耳にする労働基準法は、もともと劣悪な労働条件で使用されていた戦前の労働者を保護するため、労働条件の最低条件を定めるために作られた法律でした。
現在も「第五章 安全及び衛生」という項が残っているとおり、労働安全衛生法の内容を含む法律でした。
しかし、高度経済成長期に労働災害が多発したことをきっかけに、新たに労働安全衛生法として独立し、労働者の安全と健康を守ることに特化した法律が制定されたのです。
個人事業主に関する労働安全衛生法の改正
前述したとおり、現在の労働安全衛生法は、基本的に企業に勤める労働者の安全と健康を守る義務を課す法律です。
しかし、現在、労働安全衛生法にもとづき企業が安全と健康を守るべき対象に個人事業者も追加すべきではないかということが議論されています。
2023年4月1日には、建設アスベスト訴訟最高裁判決(最判令和3年5月17日判例時報2498号52頁)を踏まえて厚生労働省令が改正され、「健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」という労働安全衛生法22条の義務において、一人親方等の健康障害を防止するための措置を講じる義務も含まれることとなりました。
これは、従来の労働者のみを保護するという方針が転換されたことを意味します。
当該改正は、有害危険な作業に従事する場合に限定されていますが、現在の議論ではIT業界の個人事業主なども対象となっています。
今回検討されている労働安全衛生法の改正が実現した場合、個人事業主がより安心して働くことができるようになるでしょう。
参考:厚生労働省│個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会
労働安全衛生法の改正内容
労働安全衛生法は、時代の変化にあわせて改正が行われています。
ここからは、2023年7月31日に開催され検討会によって議論された労働安全衛生法の改正案の内容について、具体的に見ていきましょう。
※まだ議論段階の内容であり、改正された訳ではありませんので注意してください。
【労働安全衛生法の改定案の内容】
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負傷・死亡事故の報告を義務化する
従来の対象であった労働者に加え、個人事業者における業務上の負傷・死亡事故の報告が義務化される見込みです。
個人事業主の増加に伴い、業務上の事故についての実態を把握する目的のもと、本改正が検討されています。
個人事業主として業務を請け負う者が、業務上の事故により4日以上の休業または死亡した場合、発注元の企業や現場を管理する企業などが労働基準監督署へ報告しなければならない可能性があります。
労働の強制を国へ報告できる
労働の強制があった場合は、個人事業主本人から国へ報告できる仕組み作りも検討されています。
発注者から睡眠時間を確保できないほどの労働を強いられるなどして体調を崩した場合に、本人から国へ報告できるという仕組みです。
過重労働によって体の不調をきたしたり、精神障害になったりした場合に報告が可能となります。
健康診断の受診を国から勧められる
法改正に伴い、個人事業者も1年に1回の健康診断の受診が勧められます。
企業に勤めていると、1年に1回必ず健康診断を受けることになっていますが、個人事業主にはそのような決まりがありませんでした。
現在、個人事業主の健康診断受診率は半数以下であり、健康面で仕事を続けられなくなってしまう個人事業主は少なくありません。
改正における現段階では、個人事業者が健康診断を受診する場合、その費用は安全衛生費として請負契約に盛り込むことが望ましいとされています。
事故防止対策を義務付けられる
今まで保護対象になっていなかった個人事業者に対して、新たに事故防止対策が義務付けられる見込みです。
労働者に加え、個人事業者も保護対象として事故・災害防止対策が行われるでしょう。
例えば、高所作業の際に足場を設置した事業者は、労働者と個人事業主双方の安全を保護する義務があります。
また、作業を行う個人事業主自身に対しても、機械の自主点検や講習の修了など、企業で実施しているような事故防止対策を義務付ける内容となっています。
参考:厚生労働省│検討会議事録
検討中の労働安全衛生法の改正による個人事業主への主な影響
2023年7月31日に発表された労働安全衛生法の改正は、企業だけでなく個人事業主にも大きく影響します。
ここからは、具体的に個人事業主へどのような影響の可能性があるのかについて紹介します。
【労働安全衛生法の改正案による個人事業主へ見込まれる主な影響】
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健康や安全の保証
労働安全衛生法の保護対象に、個人事業者も追加することによって、個人事業主の健康と安全への補償が大幅に改善するでしょう。
今まで個人事業主の業務上の事故や過労、精神障害などについての実状は把握されずにいました。
今後の改正で、個人事業主に対する健康・安全の保証が行われることで、より多くの社会人の健康や安全を守るための法律になることが予想できるでしょう。
健康診断の受診率が向上
上記で紹介したように、国が個人事業主に対しても健康診断の受診を勧めるという仕組みができる予定です。
加えて、ヘルスリテラシーの向上を図る啓発を進めていく検討がされています。
もともと個人事業者における健康診断受診率は非常に低かったため、国が健康診断の受診を促すことで、受診率の大幅な向上が見込まれるでしょう。
健康診断受診率の向上により、個人事業主のさらなる健康の確保が可能となります。
まとめ
労働安全衛生法は、働く人の安全と健康を守るための法律です。
現在議論している法改正案では、企業で雇用されて働く人だけでなく、個人事業者も保護対象として検討されています。
今後もまだまだ議論され続けていくため、見通しは不透明な状況ではありますが、労働安全衛生法の見直しが仮に実現されれば個人事業主が安心して働ける社会に一歩近づくと言えるでしょう。
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個人事業主に関する法律については、随時チェックしてサービス・対応を行っています。
もし、今回の労働安全衛生法に限らず法律に関する相談がある人は、本記事の監修者であり、「MICHINORI」をサポートしている大野薫法律事務所へ気軽に相談してみてください。
【 監修者 】
大野 薫(おおの かおる)
大野薫法律事務所代表弁護士。
HorizonHead&company 顧問弁護士。
東京大学経済学部、神戸大学法科大学院を卒業後、2014年に弁護士登録。
東証一部上場の広告代理店、都内法律事務所勤務を経て独立。
事業の適法性確認、紛争予防、発生した紛争の解決を主たる業務とする。
過去の業務で得た知見を活かし、企業、とくにIT、広告、コンサル系を中心に会社顧問を多く持つ。
モットーは、誠実に、正確に。